夢の終わりに

第 7 話


「あ、これ美味しい!ルルーシュ、これ!」

折角お祭り会場に来たのだからと、スザクは両手では持ちきれないほどの食べ物を出店で買ってきた。この人混みでルルーシュが疲れきっているから移動するのはやめて、スザクたちが芸をするため使用していたペースで食事をとることにしたのだ。すでに撤収済みの芸人たちから予備のスタッフ証を借りたから、堂々とこの場所を使用できる。祭で混雑した公園の中で食べる場所を探さずに済むからホント助かった。
芸人たちに打ち上げに誘われたが、ルルーシュが半分夢の住人だったため丁重にお断りした。大体今日は初日だ。明日、明後日もある。今日打ち上げに付き合ったら、明日明後日も強制連行されてしまうに決まってる。パワフルな連中との打ち上げは最終日だけで十分だろう。

「・・・いい、俺はこれで十分だ」
「え~?食べなよ、こういうの滅多に食べられないんだし。それに僕もそれ食べたいから少し頂戴」
「それは一理ある。俺もそれ食べたい!」
「美味しそうだよね」
「これも美味いから食べてみろよ」

ルルーシュを間に挟み、食べ物が行き交う。
当然ルルーシュに選択権など無く、ルルーシュのパスタが入っていたパックには肉やらなんやらが加えられ、パスタがその分減っていった。

「お前たち、行儀が悪いぞ」

呆れたように、まるで小さな子供を叱るような言葉に思わず頬が緩む。一番年下に説教される大きな子供たち。滑稽だなと思うがそれもまたよし。

「いいじゃん、いいじゃん。こういう祭りで行儀よくする必要無いって。反対にこうやって食べるのが、祭りのマナーに違いない!」
「そうそう、こうやってつつき合いながら食べるのが美味しいんだよ」
「そんなマナーは知らない」
「よしよし、これでルルーシュはまた一つ賢くなったわけだ」
「なってないし、こんなマナーは認めない。こら、パスタの上に色々置くな。味が混ざるだろう」
「それが美味しいんだよ」
「悪いが理解できないな」

そう言いながらも、追加された肉を食べ始めた。
文句を言いながらも結局食べる事はわっているから、俺たちは遠慮などしない。どーせ食べ切れなければ全部スザクの胃袋に収まるんだし。

「あー食った食った!で、この後どうするんだ?」

あれだけ買ってきた食料は、瞬く間に消えてしまった。
半分以上はスザクの胃に消えたわけだが、これだけの量を食べたのに、もう少し買って来るんだったね。とかいうんだから、若者の胃袋は侮れないと思ってしまう。肉体派のスザクはそれでなくても食事量は多いが、今日はいつも以上に動いたせいでその分お腹がすいているのだろう。

「う~ん、ねえ、二人はお祭りの出し物全部見たの?」
「いんや、入口からここまで」

この人混みだ、移動だけでも一苦労だった。
まあ、それだけでもかなり楽しめたけど。

「まだ半分以上あるよ?見に行く?」

ここから先もみたい気はするが、ルルーシュは無理なんじゃないかな。すでに人混みで疲れ切ってる。なら、明日はさっさとここまで来て、ここから先を見学すればいい。なにせ今日は初日。明日明後日もある。

「・・・俺はもういい」

心底疲れ切った声で予想通りの返答をされ、思わず笑ってしまう。

「ほんっと体力ないよな、若者よ」

そう言いながら背中をばしばし叩いた。

「君、10代なのにホント元気ないよね」

一番若いのに。

「煩いな」

体力馬鹿と一緒にするな。

「あ、僕が背負おうか?」
「止めろ、恥ずかしい」
「まあ、流石にな」

気持ちはわかるがそれは無い。すまんスザク。

「ええ?リヴァルも反対?ひどいなぁ」
「おまえなぁ、小さな子供なら解るよ?でも、10代って言ってもさ、こんな図体のでかい男が背負われてるなんて、酔っぱらいの解放でもない限り笑うしかないぞ?」

酔っぱらいでも笑いものか。
けがや急病なら分かるが、疲れたからなんて、ちょっとあれなんじゃないかと疑うぞ?

「僕は平気だよ」
「俺が嫌なんだよ!」
「スザク、諦めろ。俺はルルーシュにつく」
「ひどいな、二人とも・・・ルルーシュの心配をしただけなのに・・・ね、ルルーシュ。僕に君を背負わせて?君の行きたい所に、僕が連れて行ってあげるから」

あ、でた!スザクの必殺技だ!
先ほどまでの男らしさなどどこかに消え去り、20代とは思えない童顔を武器にルルーシュの心を揺さぶりに来た。ルルーシュはなんだかんだ言っても子供に弱い。それは一緒に行動していれば気づく事だ。その上、犬も好きだ。
今ここにいるスザクは、まるで主人に許しを請う犬のように見える。あのふわふわくるくるな髪と大きく丸い目のせいもあるだろうが、こいつの尻に犬の尻尾があっても俺は驚かない!と思ってしまうほど犬なのだ。
幼い子供のような童顔に、犬という要素が加わり、上目づかいでの懇願は、ルルーシュ陥落率90%を誇る超必殺技だが、流石に内容が内容なので、ルルーシュは落ちなかった。残念だなスザク。

「行きたいなら、お前たち二人で行ってこい。俺はここで待ってる」
「え?駄目だよ」

それまでの懇願顔から一変し、スザクは鋭い視線でルルーシュを見た。声も若干低い。あ、これ喧嘩になるやつじゃね?

「何が駄目なんだ?そのスタッフ証を貸してくれれば、問題は無いだろう。そもそも俺は芸なんて興味は無いんだ」
「あれだけ楽しそうに見ておいてよく言うよ」

楽しく見てただろとスザクは否定した。
いやいや、お前ルルーシュがいつ寝たのか解らなくて、ちゃんと見てもらえたか心配してただろ!?さっきまで感想を根掘り葉掘り聞いてただろ!?ルルーシュの受け答え、結構適当で見てたか怪しい内容だったぞ!?どこからきたその自信!

「ここに来るまでの間に十分見た。なんなら明日と明後日で残りを見ればいい」

正解!その通りでございます!俺もそれさっき考えてた!

「僕は?僕抜きで二人で見て回るの?じゃあ、僕はいつ見るのさ」

あ。

「僕だって、見て歩きたいのに・・・」

シュン、とうなだれたスザクは、また叱られた犬のように見えた。
策士だ、策士がいるぞ。昨日、僕こういうの見飽きてるからって言ってたよな、俺に。ルルーシュ居ない時に。怖っ、この子怖い!

「だ、だからリヴァルと」
「君は?君は僕とは見て歩きたくないんだね・・・」

おーっと、ルルーシュ選手旗色が悪くなってきた!これはまさかの逆転あるか!?落ちるか?落ちるのか!?

「そんな事は無い。だが」
「疲れたんだろ?」
「だからと言って背負われるのはごめんだ」
「うん、解ってるよ。だから、はいこれ」

にっこり笑顔でスザクが引っ張り出してきたのは車いすだった。
いつの間に!?と思わずその椅子を凝視する。

「さっきの人たちの荷物の中にあってね、今回使わないって言うから借りておいたんだ。これなら恥ずかしくないよね?」

向日葵のような明るい笑顔を向けて言うが、うわ、お前その笑顔に似あわない腹黒さだなとリヴァルは若干引き、ルルーシュはスザクのこの行動は予想外すぎて、足が悪いわけでもないのにこれで!?と完全に引いていた。

Page Top